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アートに出来ること(8) [今だから]

「リエナクトメント」という手法があります。これは過去の出来事を再現しようとする試みですが、アートの領域でもさまざまな作品で取り入れられています。『あいちトリエンナーレ2019』では、藤井光(1976年東京都生まれ)の『無常』(2019)がありました。

この作品は、かつて日本統治下にあった台湾で制作されたプロバガンダ映画『台南州国民道場』(台湾の人々が日本人になるための訓練・宗教儀礼を受ける様子が記録されたもの)を愛知県内で働く外国人労働者の若者に映像と同じ集団の身振りをなぞらせたものを撮影し、もとの映像とシンクロさせてみせるというものでした。この作品からは“日本人になる=皇民になる”という意味付けのもとに行われた訓練が、背景のない無彩色のフレームの中で別人が同じ身振りをなぞることで与えられた意味(=課された義務の大義名分)を失い、意味を与えた者に対する疑念が生まれます。2018年の美術手帳8号で江口正登さんはオリジナルと複製との間にはズレが生じることを前提としつつも「リエナクトメントにおいて試みられているのは、その語義が示唆しているように、出来事そのものの外形的な再現ではなく、その出来事において作用していた諸々の力の再発効であると考えるべきであるだろう」と解説されています。



新型コロナウィルスが猛威をふるう現在からみた「過去の出来事」というキーワードで考えてみると、約100年前に流行した「スペイン風邪の大流行」ということが思い浮かびます。当時と現代とでは医学の発展は比べようもありませんが、意味のないデマが飛び交ったことなどは共通しているようです。不安や恐怖はデマのような根拠のない間違った情報(善意と悪意が混在し、それが意図的であるかないかも混在)を拡散します。現代からすれば嘘のような対応をあえてリエナクトメントしてみると、そこに流れているものの正体がみえてくるのではないかと思います。少し離れた視点で今を見つめなおすことが冷静さを取戻す手掛かりになるやも知れないと思うのです。

今回のレビューは、リエナクトメントという手法に注目する形になりましたが、藤井光さんの「歴史的事象を現代に再演(リエナクトメント)する手法で、社会の不可視の領域を構造的に批評する」(あいちトリエンナーレ公式カタログの解説文より引用)という姿勢に“今”を読み解き、前進する術を学びたいとの想いで書き連ねました。うまくお伝えできていれば良いのですが・・・。


https://aichitriennale.jp/2019/artwork/N03.html

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