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漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々 [映画]

1987年に流行語大賞にまでなった小説(作:安部譲二1937‐2019年)『塀の中の懲りない面々』という小説をベースにつくられた映画作品があります。良い意味で個性的な、、言い方を変えればクセ強め(笑)なキャラクターによる物語を、これまた超濃厚な俳優陣が演じていますが『漫才協会 THE MOVIE 舞台の上の懲りない面々』にも、この映画を踏襲するようにバラエティ豊かな芸人さんたちが登場します。ただ、前出の作品と異なる点は、架空のキャラクターではなく“芸人”という職業を生きる人々の“今”に迫ったドキュメンタリーであるということ。

この映画は、2023年に漫才協会の会長に就任したナイツの塙宣之さんによる漫才協会や、漫才協会が拠点とする浅草フランス座演芸場東洋館(通称:東洋館)への愛にあふれた?プレゼンテーションのようでした。作品は漫才協会に所属する芸人さんたちのリアルな日常を追いかけつつ、塙さんが漫才師に限定せず、多様な芸人さんたちを勧誘して協会を盛り上げようとする姿や、芸の伝承についての課題にもふれた内容になっていました。私は昨年くらいから日本の話芸(講談や落語)に興味がわいているので、作品前半に落語や漫才についての解説(東京では漫才よりも落語人気が強かったことや、起源は意外にも尾張万歳や三河万歳など中部地方だったり)、師弟制度(師匠や自分の先輩にあたる人を“兄さん”“姉さん”と慕い敬う(時にはそれをおもしろがったり)する文化の“これから”にも切り込んだところが特に興味深かったです。

自分の才能や努力がダイレクトに評価され、運というものにも大きく左右される芸人という職業・・・生き方は、とても厳しくて私には選びきれない道ですが、人生の悲喜交交を乗り越えて“目の前の人を笑顔にする”彼らは私には勇者に思えちゃった(笑)。貫き生きることって、やっぱりかっこいいですもんね!


■公式HP:https://mankyo-the-movie.com/



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ジャン=リュック・ゴダール 遺言 奇妙な戦争 [映画]

その昔、私はデザインを学ぶ学生でした。ありがちな課題として“ポスター制作”に取り組んだ時、これまた出会いがち(笑)なのが、ヌーヴェルヴァーグの映画作品たち。フランス語もわからないし、ストーリーもわからない状態であっても、ヴィジュアルのおしゃれ度の高さはポスター素材として最高のモチーフだと思いました。特に、ジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』(1960)や『気狂いピエロ』(1965)はタイトルも含めて『なんておしゃれなの!?』と、デザイン学生のハートを鷲掴みにするものでした(笑)。

社会人になり、アートやダンスの評論の世界に足を突っ込むと、旅先でわけもわからず“展覧会”と名の付くものには予習なしに飛び込んでみるという、これまた学生時代の姿勢を踏襲した性癖でゴダールとの再会を果たしました。大阪で開催されていた『堂島リバービエンナーレ2019』は、ゴダールの『イメージの本』(2018年)からインスパイアされた内容の展示でした。時間があまりなく、ざっと会場を一巡したものの、あまり理解することも出来なかったため『イメージの本』のDVDを購入して会場を後にしました。でも、会場全体で感じていた断片的な映像や音のコラージュがつくりだす独特なイメージは何となく“圧が強く”(苦笑)て、旅から戻っても開封すらしないままでした。当時の私には見るのを躊躇するような感覚があったのだと思います。

そしてそして(何て長い前置き!)つい先日、ゴダールの遺作といわれる『ジャン=リュック・ゴダール 遺言 奇妙な戦争』が上演されるのを知り、出かけることにしました。なんだかんだ言っても、ゴダールの映画作品を映画館でみることは初めてでした(汗)。ゴダール自身は2022年9月、生前の宣言通りスイスで尊厳死を遂げていますが、20分という短編の本作は彼の作品スタイルに貫かれた作品ではないかと感じました。次々と展開する映像は物語として作品を回収しようとする観客を否定するように、映像も音も断片的。字幕も画面右と下に表記されるので、フランス語がわからない私には文字を追うことも難しい状況です。この状況、まるで感覚の暴力にさらされたような心境になるのですが、見終わる頃には、その独自な世界感にヤラレています(笑)。すごい才能なんだなぁと、遺作をみてようやく体感したようです。

さて、『ジャン=リュック・ゴダール 遺言 奇妙な戦争』を見たその後、改めてゴダールを知りたいと思い、数年を経てようやく『イメージの本』(2018年)のDVDを開封しました。内容を知り、驚きました。作品では、ホロコーストとイスラエルとパレスチナの紛争への怒りが描かれていたのです(・・・内容も確認せずに購入してた;)。2019年当時、日本ではあまりイスラエルとパレスチナ紛争についての報道も少なく、それほど注目されていなかったようにも思います。日本にいる私はようやく今年になってこの紛争の悲惨さを知り、愕然としているような世間知らず。ゴダールが感じた怒りをいまさらながらに受け取ったように感じました。もっと早く開封しておくべきだったと後悔しました。

ゴダールを初めて知った学生の頃から、時代は平和とは反対側へと急ぎ足になっているようにも感じます。偶然の出会いからいち早く世界を知ることもあるのかも知れない・・・。アンテナを高く張り、世界で起きている出来事に、きちんと目を向けていきたいと改めて思いました。


■ジャン=リュック・ゴダール 遺言 奇妙な戦争:https://godard-phonywarsjp.com/







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カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし [映画]

学生の頃、部活の後輩の熱烈な誘いで『魔女の宅急便』(スタジオジブリ作品:1989年)を見に行きました。予備知識がなく出かけた私でしたが(いつものことか;)主人公のキキが悩みを抱えつつも、周囲の個性豊かな人々に支えられて成長していく姿が印象深く、ステキだと感激しておりました。ただこの時、原作者がいることを全く意識していませんでした(すみません;)。

そんな私。今年に入って出かけた映画館でひときわカラフルなフライヤーに目が留まり、手に取ると『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』とあります。マゼンダピンクの背景に、ビビッドカラー+花柄模様のワンピース+四角いフレームでこれまたビビッドカラーの眼鏡をかけたシニア女性が笑っています。みているだけでワクワクしてくるおしゃれセンス、いったい何者?!と注視してみたら、この人が『魔女の宅急便』の原作者だとわかりました。

作品は鎌倉に暮らす角野さんの暮らしを追ったドキュメンタリー。明るくてチャーミングな人だな、というのが第一印象でしたが、年齢を知って仰天。なんと88歳。朝から夕方まで執筆活動をこなしながら、お散歩を楽しんだり、小学校で子どもたちと“なぞなぞ”作りを通して生きるヒントを伝えたりと、みる限り既存の“お年寄り”という言葉は当てはまりません。また、角野さんがイキイキと輝いてみえるのは彼女のファッションの影響も大きいかも知れません。ひとり娘のりおさんがコーディネートされているというカラフルなファッション。どれもピンクや鮮やかなブルーなど目にすると元気になれる色使い。ユニフォームともいえるこのワンピースは独自の型紙で、オーダーメイドで縫ってもらっているそう。身体にストレスをかけないゆったりとしたシルエットで、動きやすさを大事にしているのだとか。『身体が気持ちいと感じることが優先なのよ』と角野さんはおっしゃっていました。こういう点、参考にしたいなと思いました。そうそう、派手めの色とユニークな形(六角形や大きな丸など)の眼鏡も、角野さんのトレードマークなんだそうですよ。先日、私も初めて眼鏡をつくりましたが、赤いフレームで左右が四角と丸の楽しいものにしてみました(笑)。気分が明るくなるのを実感していますので、カラフルなものを自分の味方にするのって、パワーを与えてくれる良い選択なのかも知れません。

私も50代に入り、自身の人生の先行きを考えることが増えたのですが(基礎疾患があるというのも影響しているかも)、この作品で最も心に残ったのは、角野さんがデビュー作の『ルイジンニョ少年ブラジルをたずねて』のモデルとなったブラジル人のルイジンニョさんとオープン間もない「魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)」で、62年ぶりの再会を果たされた時のシーンでした。ご自身より年下のルイジンニョさんが衰弱されているのを感じた角野さんが、そっとやさしく抱擁する姿にじーんときちゃったんです。ルイジンニョさんは「必ずまた会いに来るよ」とくりかえしますが、その言葉は恐らく叶えられないように思えます。このシーンで私は「人生の残り時間」というものを想いました。時間が進むことを誰も止めることはできませんし、それにつれて自身が老いていくことも避けることはできません。そんな中で、やってみたいことや叶えたい夢があるということの意味を想ったのです。残された時間の中で、どれだけのことが許されるのか・・・。考えると切なさがこみあげてくるのですが、だからといって諦めて動きを止めてしまうのももったいないですよね。

作品の中で角野さんは「思い出っていうのは過去のことですよね。でも、それが未来で待っている。」と、ルイジンニョさんとの再会についてお話されるシーンがありました。もちろんこれは年齢を重ねることへの肯定とも言えますが、今を精一杯生きることの大切さや奥深さを言っているようにも感じます。私たちの人生という時間は、過去・現在・未来が時に驚くようなタイミングや方法で交差し、幸せな循環を生み出してくれる・・・そんなことが伝わってくるように思いました。エンドロールを眺めながら『くううう、私も角野さんみたいにカラフルに生きたいものだわっ』などと、小さく握りこぶしをつくっている私でした。なぜ握りこぶしなのか、それはちょっと自分でも意味不明ですけどね(笑)。


カラフルな魔女https://movies.kadokawa.co.jp/majo_kadono/
*愛知県では2024年2月12日現在、伏見ミリオン座(https://eiga.starcat.co.jp/)とミッドランドシネマ名古屋空港(http://www.midland-cinema.jp/movie/show)で上映中ですね。

■魔法の文学館https://kikismuseum.jp/
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PERFECT DAY [映画]

*本題までの前書きが長いです。前半は『PERFECT DAY』のレビューというより、前段。不要な方は読み飛ばして下さいね。


<あなたが映画を選ぶ理由はなんでしょう?>

映画をみようと思うきっかけは人それぞれ。では、ご自身がどんな映画を選んでみているかは意識されているでしょうか?

先日、ある方から1つの映画作品を薦めて頂きました。出演者によく名前の知られたダンサーがいたこともあり、その方は私にその作品を薦めて下さったのかも知れません。私自身も、先ず出演者の情報を伺い「わーい、それみたーーい!」とはしゃいでしまった(笑)のですが、作品についての詳細情報のリンクを頂いて愕然とします。戦後の混乱の中で身を売りながら日々を生きる女性と、戦争孤児となった少年とのふれあいや、戦争で傷を負った男との関わりなどを通して人間というものが描かれている内容だったのです。私は、なぜか女性が身を売ることなど女性特有の性にまつわるエピソードが苦手で、受け入れられないことがほとんどです。とても辛く苦しい気持ちになり、身体的にも影響が出てしまうほど。出産といったおめでたいことですら、少ししんどい気持ちになってしまうので、かなりの重症だと自覚しています(苦笑)。

友人にその話をしたところ「心揺さぶられる問題作とかよくあるけど、別に揺さぶられなくていいから。無理してみなくていいよ。」とバッサリ(笑)。では、私自身はどんな映画がみたいのだろうと考えてみました。

実は先日、沢田研二さんが出演されるのが気になり録画していた、山田洋二監督の『キネマの神様』を見始めたのですが、沢田さん演じる主人公はギャンブルで借金を重ねるどうしようもない人物。私は悲惨な物語の展開を想像して辛くなりかけたのですが(苦笑)、主人公はどこかほのぼのとしている。娘や妻から借金をしないよう厳しく責められるのですが、子どものようにダダをこねている。娘はこれまでに父親である主人公の借金を肩代わりしてきていますが、今は自身の仕事もまもなく先がなくなるような辛い立場。それなのに男に映画の会員権の会費は面倒をみてやるといっているのです。・・・そう、山田洋二監督は人をこのように描くんですよね。子供のころ、私は両親に正月になると必ず『男はつらいよ』の映画をみに連れていかれた時の感覚を思い出しました。両親たちは寅さんのどうしようもなさを軸に描かれる人情のぬくもりに暖をとるように毎年、山田洋二監督の『男はつらいよ』をみていたのだと思います。両親ともに仕事には苦労をしていましたし、暮らしもさほど余裕はなく、きっと日常は辛い思いをしていたと思います。見はじめた『キネマの神様』から、私は自分が選びたい映画は自分がほっと息をついたり、そっと温まるようなものを求めるのではないかと直感しました。


<ようやく『PERFECT DAY』についての感想を>

日常にささやかな幸せをみつける、という印象を持っていた『PERFECT DAY』を選んでみることにしました。監督はドイツ人のWIM WENDERS。『ベルリン・天使の詩』('87)や『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』といった作品を手がけている方でした。ピナ・バウシュのドキュメンタリーはピナの死後、私もみていて、彼女の人生や魅力を伝える優れた作品だと感じていましたが『PERFECT DAY』は、主人公・平山の日々を追った詩的なドキュメンタリーのようでもあり、音楽が美しく織り込まれたロードムービーのようでもあると感じました。上演時間は2時間20分ですが、時間を忘れてひきこまれました。

日常にささやかな幸せをみつける・・・私の最初の印象は言葉としては同じかも知れませんが、そこには平山という人物の描かれ方・・・描かれていない余白の奥深さが加わることでニュアンスが変わったと思います。日々を慎ましく、無口であまり人と関わらず、ほぼ同じ日常動作のルーティーンに生きていると書くと、無味乾燥な人物とも思われそうですが、彼にとっての日常は、木漏れ日のように二度と同じもののない輝きと美しさに満ちている。朝、仕事場に向かうたびに見上げる空をみて、ふっとみせる微笑みや昼食をとるために立ち寄る神社の境内には“友だちの木”がいたりする。慎ましい暮らしといえど、職場には高速道路を使って移動していますし、毎週末ごとに撮りためた木の写真を現像して満足しない写真は破り捨てるなどこだわりもあり、文学作品を読みふけるなど知性もある。ちょっと気になる美人ママのいる居酒屋の常連客でもあります。また、作品の中で平山の生い立ちが垣間見られる設定があるのですが、そこにはどうしようもない理由から断ち切られたであろう家族への想いがあふれるシーンがあります。封じ込めた想いや、止まってしまった時間がどうしようもなくそこには根雪のように溶けることが出来ずにあるのでしょう。劇場では涙する観客もチラホラ。私もグッときてしまいました(笑)。

ラストシーン、車を運転する平山の顔をアップにしたシーンでは、役所広司さんの深い演技が圧巻です。微笑みとこみ上げる悲しみや淋しさが往来し、その表情は木漏れ日のようでもありました。美しく、人生の深さを感じる素晴らしいシーンでした。

監督がドイツの方ということもあるのでしょうか。日本を描く切り口も新鮮でした。平山の暮らす場所は東京スカイツリーの近くで、都会と人情的な下町とが同居するような場所です。平山の住むアパートの裏にはお寺があるようで、毎朝その場所を箒で掃き清める音で平山は目覚めています。作品の中に登場する魅力的なデザインの公共トイレは『THE TOKYO TOILET』というプロジェクトでつくられたもので、世界的な建築家やデザイナーが手がけているそうです。どのトイレも平山がピカピカに磨き上げていましたが、監督はこのプロジェクトに深く感銘を受けたとあるTV番組では紹介されていました。訪れてみたいトイレです。

あと、なんと作品中には田中泯が登場しています!知らなかったので、超ビックリです(笑)。平山にしかみえないホームレスという設定なのですが、踊ってるんですよー、舞踏。もう、嬉しすぎて声をあげそうになっちゃいました。思わぬところで踊る人が登場してくれて、テンション爆上がりでしたね。


<長文になって、すみません>

映画のレビュー、書き慣れないこともあって、長文になりました。ん?レビューといえるのかしら(笑)。すっかり魅了されて映画館を出た私。この作品を選んで良かったなと、とても幸せな気持ちで満たされました。いい映画です。


■PERFECT DAY: https://www.perfectdays-movie.jp/




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