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まつもと演劇祭にてVTSを応用したワークショップを開催 [ワークショップ/レビュー]

Arts&Theatre→Literacyでは、VTS(=Visual Thinking Strategyの略で、アメリカで開発された美術鑑賞メソッド)を応用したプログラムを展開していますが、今回はまつもと演劇祭とのコラボレーション企画として、演劇やアートを楽しむコツを感じて頂けるような内容で開催しました。


■タイトル:『みて、感じて、話す・・・演劇やアートを5倍くらい(?)楽しむコツ、
教えます!』
■開催日:2019年10月6日(日)14:00-15:30 
■会場:長野県松本市 下町会館
■参加人数:6名

■内容
①アートや演劇を鑑賞をする際の困りごとの共有
②役者2名によるデモンストレーションについてコメントを出し合い、互いの見方を拡げる。
■ポイント
「どこがいつもと違うのか?」「違和感や変化点から想像を膨らませる」ということを体感する。

★写真はFacebookのトーチカ!ページをご覧下さいませ。
https://www.facebook.com/トーチカ-107752300569128/

■レポート
当日、デモを担当して下さった役者2名を含めて参加者は6名で、男女ともに3名づつ。
VTSは多様な参加者がいることで豊かになりますから、今回はちょうどよいバランスになったと思います。

今回は演劇祭開催中ということもあり、美術作品をモニターに映して鑑賞するスタイルではなく
役者2名にカンタンなシーンをデモンストレーション実施して頂き、参加者のみなさんには、そのシーンがどう見えているか、どこからそう感じたかを言葉にして頂くスタイルにアレンジしました。

先ずはじめに、参加者のみなさんに鑑賞でのお困りごとを出しあって頂きました。
「まったく知らない劇団だったら勧められてもどうしようと思って観に行きづらい」
「人に進めたいけど、どう説明していいか・・・」「あらすじでネタバレせずに感想が言えない」「視覚や聴覚以外での楽しみ方が難しい」「後で思い起こすことはあるが、終わってすぐは理解出来ない」「楽しむとか理解するコツを知りたい」「静かにしていないといけないの?」ということなどがあげられました。感じたことを言葉にすることや他者の言葉から想像することの難しさ、作品を楽しんだり理解するためのコツのようなものを求める気持ちなどが見えて来ました。


デモンストレーションは、イスを1脚とイスの上に本が1冊置かれているシーンからスタート。

会場となった下町会館は洋風建築のレトロな建物で、使用したお部屋も雰囲気のある窓にクラシカルなイスがとてもマッチする場所でした。そんな場所ですから、ほんの少しの意図を加えるだけで空間そのものが物語の1シーンになってしまいます。

参加者からは「イスの近くには誰もいないから、誰かが本を読み終えてここを出ていったのかも知れない」というコメントや「本が置かれた状態だから、まだ本を読んでいる途中かも知れない」「本が読みかけのようにイスの座面に置いてあるから、読んでいる途中だったけど、誰かが部屋の外に尋ねてきて、しばらくしたらまた戻ってきて読み始めるかも」といった、時間の流れとここにはいない不在の存在を感じたコメントが出されて興味深く感じました。

次のシーンでは、本を床に置いた状態でコメント出し。
本来はあまり床に置かれることの少ない本が床に置かれたことが違和感となり、「どうしてそこに本が置かれたのか」というプロセスに想いを馳せるコメントが多く出されました。

次のシーンからは役者さんが登場します。先ずは尾國裕子さんが大きなクマの縫いぐるみを持って登場します。はじめは縫いぐるみと手を繋ぐような恰好、その次は縫いぐるみを頭の上に乗っけた格好、次は床に縫いぐるみを置いてその上に立つ格好、というように1つの小道具と役者さんとの立ち位置から見方を変えていきました。同じ小道具でも持ち方や置き方で印象が変わっていくことを体験して頂きました。

次のシーンからは下垣浩さんにも加わって頂きました。イスに尾國さんに座って頂き、下垣さんにはその横に立ってもらいました。この時、互いに目を合わせるか合わせないかでも印象がガラリと変わります。座っていたイスをひっくり返して2名の役者の間に置いてみることも試しましたが、ここまで違和感を強くすると「どうしてこうなったのか」という見ているまでの経緯に想いを馳せるコメントが出てきました(先の床置きの本と同じパターンですね)。
見ているときの印象の変化=違和感を見つけるヒントにして頂きながら、その違和感から芋づる式にいろいろと連想を膨らませることを体感して頂けたようです。
*今回のワークは平面の美術作品と異なり、シーンに至るプロセス(時間)にまで想像が及ぶという点が非常に興味深いと感じました。


次のシーンでは、イスに座る尾國さんと隣に立つ下垣さんという基本的なシチュエーションは変えずに、異なる音楽を3曲流してその印象の差を体感して頂きました。また、役者さんにも音楽の印象から受けた衝動の差を自然な形で動きにして頂くようお願いしました。音楽による印象の差と、役者さんから表現として出てくる衝動の差を体感するワーク。使用した曲はすごくベタですが(笑)カルミナ・ブラーナ、マイ・ウェイ、圭子の夢は夜ひらくを使いました。ちょっと手違いでリハーサルで使った曲が再生できずに2曲変更したのですが(汗)、かえって役者さんは自由に動けたようで、結果オーライでした。

当然ながらまったく個性の異なる曲でしたから、印象は違うものになりましたが、役者さんの動きの差が即興的要素を含んでいて興味深く感じました。今回のワークショップでは参加者のみなさんにも役者さんにも同じように参加して頂いたのですが、役者さんのコメントからは「なぜその動きになったのか」というコメントが出され、見る人と演じる人双方のコメントを聞く機会になり、インタラクティブな時間が創出出来たと感じました。

最後に参加者全員で感想などシェアしましたが、中でも興味深かったコメントは「何度も同じ作品を見ていると見方が変わっていく(以前演劇のスタッフをお手伝いする機会があって、舞台袖で何度も同じ作品を見る機会があったそうです!)のを感じた」というもの。美術鑑賞もそうですが、やはり鑑賞経験を重ねるということも作品を楽しむ大きなコツですね。今回のワークショップでご紹介した「違和感を見つける/そこから芋づる式に想像を巡らせる」といったポイントと合わせて「何度か見てみる」ということにもぜひチャレンジして頂くと良いと思いました。幸いにも演劇祭はパスポートチケット制で、同じ作品が会期中には2~3回上演されますから、こうした機会に鑑賞力を育てるにはピッタリ。これって新しい演劇祭の楽しみ方になりそうです。

大きな演劇祭の中での小さなイベントでしたが、これからの新しい可能性のひとつになれたら幸甚です。機会を頂いたまつもと演劇祭さん、参加者のみなさま、サポートしてくれたスタッフに心からの感謝を。ありがとうございました!




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