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オーケストラで踊ろう!「裁&判」 [しごと]

シリーズとしては5作目となるオーケストラで踊ろう!『裁&判』(可児市文化創造センター)を拝見しました。市民参加型の舞台上演作品としては大規模で、参加する市民は小学4年生~80代までの48名とのこと。音楽は生のオーケストラですが、こちらも可児市文化創造センター開館のオープニングコンサートで集まった市民が楽団となって関わっているという徹底ぶり。スタッフワークも手厚いようで、参加者のみなさんのイキイキとした姿が何よりこの企画の成功を物語っていると感じました。
こうしたベースがあるという上で、ダンス作品として感じた魅力を書き出してみたいと思います。

■日時:2024年03月2日(土)3日(日)2日(土)18:30 ・3日(日)14:00
■会場:可児市文化創造センター ala 主劇場
■振付・演出:康本 雅子
■指揮:古谷 誠一
■美術:大島 広子
■アシスタント:小山 まさし、小倉 笑

■演奏:可児交響楽団
■出演:公募で集まった市民 48名

★HP:https://www.kpac.or.jp/ala/event_event/okeodo240302-03/



<市民が描く二項対立の向こう側にある景色・・・『裁&判』>

冒頭、オーケストラピットが舞台上にせり出した状態で演奏が始まった。「スターウォーズ」のメインタイトルだ。壮大な宇宙を舞台に大冒険のはじまりを予感させるようなワクワク感が一気に湧き上がるが、誰もが知っているメジャーな曲を導入にすることで親しみやすく、これからはじまる作品のテーマ「裁判」をイメージさせる丁寧な入り口を設けたともいえる。

今回の振付を担当した康本雅子は、クラッシク曲であるA・ドヴォルザーク作曲の「交響曲第8番ト長調作品88」を枠組みがあるものが似合うと考え「裁判」を選んだという(当日パンフレットより)。“裁判”は、大まかにいえば対立するもの同士が利害の衝突などを解決・調整するために行われるものだが、本作品でも、裁判官・検察官・陪審員・弁護人・書記といった裁判に関わる役割ごとにチームが組まれていた。これ以外にも清掃員とパンダという謎の役割?(これらは1名づつ)も設定されているが、ここには被告人が存在せず、構造的にみればドーナツの穴のように対立の中心となるものがない。
オーケストラピットが舞台より一段下がると、いよいよ舞台がはじまった。天井付近から細いロープに吊られた1客の小さな椅子が降りてくる。善か悪か、是か非か、1つしかない答えは宙づりになって、それぞれの立場の人の真ん中で宙ぶらりんになっている状態だ。

対立の中心が不在とはいえ、検察官チームと弁護人チームが右と左から中心に向かって主張をぶつけ合うシーンなどは緊張感も高まった。だが、思わず笑ってしまったのは各チームが手に持った団扇でパタパタと扇ぎだすと、それぞれのチームから1名づつが対立の先頭に煽られて飛び出し、紙相撲のような動きでワチャワチャやりあっているシーンである。衝突シーンなのに、その動きや思いがけない発想が滑稽で笑ってしまう。だが、集団に煽られて期せずして先頭に立ってしまうということは誰にでも起こりえることでもあり、笑いながらも少しヒヤリとする感覚もあった。

終盤、検察官も書記も弁護人も、みながそれぞれの時間を舞台上で一同に過ごすシーンが挿入された。おそらく時間は夕方から夜にかけてであろうか。ある者はキッチンで夕飯の支度をし、ある者はゆったりと風呂で寛いでいるようにもみえる・・・。このシーンでは、参加者が思い思いに動きをみせるのだが、恐らく普段の日常的な行動を動きにしたものだろう。立場が違っても、それぞれが個性的に過ごす豊かさが描かれているように感じられ、市民参加型作品でしか表現のできない魅力を感じた。

本作品では、宙づりの椅子はどちらにも傾かず、降りてこなかった。引き上げられた椅子に代わり、無限を意味する“∞”の形(メビウスの輪)をしたオブジェがゆったりと吊られた中、人々は人間から動物へと変容していく。さっきまで与えられた役割を演じていた人々は四つん這いになって無秩序に自在に動き回るのだ。一方、白黒あわせ持つパンダは、そっと被り物の頭部を脱ぐ。彼は上演中、ぶらぶらと時間を持て余しているかと思えば、どこかに電話して陳謝したりしながら過ごしていた。一貫性に欠けるようでありながら、シーンごとに切り取ってみれば誰もが見覚えのある営みに過ぎない(被り物をつけているという点を除いて)。舞台中空に吊られた無限の印は2つの円がねじれてつながっているが、円周上を1つの方向に向かって進んでいくと、1周すると今度は逆方向へ進んでいくことになる。人間は動物へ、パンダは人間へと回帰したが、時間が経過すれば彼らはまた人間や動物に戻るのかも知れない。出来事は秩序と無秩序を進み続け、変容しながら時を重ねていくのだろうか。

世界を見渡せば、白か黒かを巡って人々は争い、目を覆いたくなる悲劇が日々くりかえされている。終わりは見えない。また、白なのか黒なのかさえ問わずに自然災害が襲ってくることもある。しかし、解のない中心をぐるぐると巡りながらも、個を輝かせながら歩みを止めずに生きてゆくことが大切なのではないかと、本作品をみて感じることができた。厳しさを増す現実の中、輝く笑顔で踊りきった参加者の姿をみて希望をもった。

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