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アートに出来ること(1) [今だから]

2020年の3月末ごろから、日々の終わりに気になって探してしまう数字があります。それは新型コロナウィルスの感染者数。『2桁になった、3桁を超えた、月曜日は検体の受け入れ数が少ないから減少する・・・』数字の浮き沈みに一喜一憂する自分がいます。それでも「数字」という記号を見つめる時、そこにどれだけ多くのことをリアルに感じ取っているのかについては実感が持てない自分も同時にいるのです。

『あいちトリエンナーレ2019』で出会った作品を思い出しました。タニア・ブルゲラ(1968年キューバ生まれ)の『10150051』です。

入り口で手の甲に押される8桁の黒文字のスタンプ。それは世界にいる移民の数を示していて、日々増えていきます。観客は、スタンプを押されるとそのまま何もない白い部屋に通されますが、空間は強烈なミントのような香り(成分、といった方が適しているかも知れません)で満たされていて、多くの人は目に強い刺激を覚えて涙をこぼしてしまいます。

作家は、観客に強制的に涙を流させることで、数字という客観的な文字列に込められた悲しい出来事を体感させようとしたのだと思います。

私はタニアの作品を鑑賞したあと電車に乗って帰宅したのですが、ふと見た手の甲の文字は半日も経っていないというのに既に汗に滲んで消えはじめていました。ついさっき流した目の痛みも涙の感触すら薄れていました。そしてハッとしたのです。こんなにも人は誰かの痛みを日常の中で忘れていくのかと。


日々探してしまう感染者の数。そこに何が、どれだけのことが詰まっているのか。誰かが苦しみ、命を失い、失われようとする命を必死で救おうとする闘いがあるのか・・・改めて自分の感覚としてとらえる必要があると思います。ニュースキャスターは何度か同じ言葉を繰り返していました。「想像すること」・・・アート作品たちは「想像すること」を通して何かを訴えています。そしてそれは、決して遠くにあることでもなくなってきているのです。今、すぐ近くで起きているということ、それすら想像できなくなっていないでしょうか。

https://aichitriennale.jp/artwork/A30.html

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