SSブログ

オーケストラで踊ろう!裁&判 [取材]

2024年3月2日・3日の2日間、可児市文化創造センターalaにて『オーケストラで踊ろう!裁&判』が上演されます。この『オーケストラで踊ろう!』のシリーズは今回で5回目。毎回、可児市(初回の2010年は大垣市との共催)が開催するもので、第一線で活躍する振付家を招き、市民が100人以上参加して作り上げる企画です。“オーケストラと踊ろう!”というところの“オーケストラ”も、可児市文化創造センター開館のオープニングコンサートで集まった市民が楽団となり関わっているといいますから、とても大勢の市民が参加する企画なんですね。ここまで市民がたくさん参加する舞台企画、なかなか見かけない気がします。

この可児市文化創造センター、私は開館時に魅力的なダンス公演が上演されたことをきっかけに通うようになりました。そのうちに、この会館が全国的にも有名な市民が集まる劇場として知られるようにもなります。確かに、いつ訪れても市民のみなさんがいらっしゃるように思います(イベントがある時だけ人がいる場所ではなく、常に市民が利用しているという理想的な公共施設の姿ですね)。で、今年の振付家が康本雅子さんと聞き、舞台稽古の日にお邪魔して見学してきました。

・・・・・

当日、担当の松浦さんにごあいさつ。稽古がはじまるまでの短い時間でしたが、これまでに参加した振付家や、今回の作品の注目点をお聞きしました。歴代の振付家を聞いてビックリ。めちゃくちゃ豪華です(笑)。

第1回:2010年 構成・振付:坂本公成(Monochrome Circus)×交響曲第二番:ジャン・シベリウス
第2回:2013年 構成・振付:井出茂太(idevian crew)×新世界:アントニン・ドヴォルザーク
第3回:2016年 構成・振付:森下真樹×運命:ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーベン
第4回:2019年 構成・振付:近藤良平(コンドルズ)×:「アルルの女」:ジョルジュ・ビゼー、「ペール・ギュント 第一組曲」:グリーグ

 ・・・すごくないですか(笑)?!

さてさて、今回の上演についてのお話に戻りましょう。
私は今回の康本雅子さんの振り付ける作品を何度か拝見しましたが、音楽と一体となって踊っておられるという印象が強かったですし、クラッシック音楽というイメージはあまり持っていませんでした。康本さんご自身も、今回振り付ける「交響曲第8番ト長調作品88」には当初、悩まれたご様子。「捉えることが難しい(笑)曲で、何度聞いても、これでダンスが作れるかわからないという感覚」を持ったそうです。さらに「クラッシック音楽は楽章という形式がありますし、指揮者がたくさんの演奏家を率いて届ける音は、とても強いものです」とおっしゃっています(ala2024年2月号より引用)。そこで「裁判」をテーマに設定したとのこと。おそらく、二項対立(白と黒という2つの側面がある)という構造を参照して作品を組み立てていくのではないかと思います。ただ、裁判という文字が「裁&判」というように“&”で分割(結合とみた方がいい?)されている点に、何か康本さんの想いが隠れていそうで、本番にどうなっているか興味深々です。

また、この企画にはダンサーとして50人という大勢の市民・・・小学4年生から80歳までの幅広い年代の市民が参加されているといいます。こんなに大勢の人にどうやって振り付けるんだろうと思いますが、康本さんは「稽古する中で、それぞれの個性がみえてくると思うので、それをもとにパーツを振り分けながら構成していくと思います。大人数ですから、ソロ、2人組、3人組など組み合わせも自在ですし、群舞の中で25人ずつの塊をつくるとか、隊形のバリエーションはいくらでも考えられそうです」(ala2024年2月号より引用)と、大勢であっても個性によって魅力的に振付けていく戦略もある様子。さすが、プロですよね(笑)。

今回、見学をしていて気づいたのですが、アシスタントのおひとり、小倉笑さんは、2010年の初回の『オーケストラで踊ろう!』に出演されていた方でした。小倉笑さんはその独創性と身体能力の高さで今、注目のダンサーでもありますが、こうしてご自身も参加された企画に今度は市民のみなさんをサポートする側にまわっていらっしゃいます。なんだか感慨深いですね。可児市という地域でダンスがきちんと循環して継続していることの証だと感じ、ステキだなと思います。

さてさて、本番まであと少し。ぜひぜひ『オーケストラで踊ろう! 裁&判』にご来場くださいねー。
私は3日の会にお邪魔する予定です☆

■日時:2024年3月2日(土)18:30-・3日(日)14:00-
■会場:可児市文化創造センター ala 主劇場

詳細:https://www.kpac.or.jp/ala/event_event/okeodo240302-03/
nice!(0)  コメント(0) 

カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし [映画]

学生の頃、部活の後輩の熱烈な誘いで『魔女の宅急便』(スタジオジブリ作品:1989年)を見に行きました。予備知識がなく出かけた私でしたが(いつものことか;)主人公のキキが悩みを抱えつつも、周囲の個性豊かな人々に支えられて成長していく姿が印象深く、ステキだと感激しておりました。ただこの時、原作者がいることを全く意識していませんでした(すみません;)。

そんな私。今年に入って出かけた映画館でひときわカラフルなフライヤーに目が留まり、手に取ると『カラフルな魔女 角野栄子の物語が生まれる暮らし』とあります。マゼンダピンクの背景に、ビビッドカラー+花柄模様のワンピース+四角いフレームでこれまたビビッドカラーの眼鏡をかけたシニア女性が笑っています。みているだけでワクワクしてくるおしゃれセンス、いったい何者?!と注視してみたら、この人が『魔女の宅急便』の原作者だとわかりました。

作品は鎌倉に暮らす角野さんの暮らしを追ったドキュメンタリー。明るくてチャーミングな人だな、というのが第一印象でしたが、年齢を知って仰天。なんと88歳。朝から夕方まで執筆活動をこなしながら、お散歩を楽しんだり、小学校で子どもたちと“なぞなぞ”作りを通して生きるヒントを伝えたりと、みる限り既存の“お年寄り”という言葉は当てはまりません。また、角野さんがイキイキと輝いてみえるのは彼女のファッションの影響も大きいかも知れません。ひとり娘のりおさんがコーディネートされているというカラフルなファッション。どれもピンクや鮮やかなブルーなど目にすると元気になれる色使い。ユニフォームともいえるこのワンピースは独自の型紙で、オーダーメイドで縫ってもらっているそう。身体にストレスをかけないゆったりとしたシルエットで、動きやすさを大事にしているのだとか。『身体が気持ちいと感じることが優先なのよ』と角野さんはおっしゃっていました。こういう点、参考にしたいなと思いました。そうそう、派手めの色とユニークな形(六角形や大きな丸など)の眼鏡も、角野さんのトレードマークなんだそうですよ。先日、私も初めて眼鏡をつくりましたが、赤いフレームで左右が四角と丸の楽しいものにしてみました(笑)。気分が明るくなるのを実感していますので、カラフルなものを自分の味方にするのって、パワーを与えてくれる良い選択なのかも知れません。

私も50代に入り、自身の人生の先行きを考えることが増えたのですが(基礎疾患があるというのも影響しているかも)、この作品で最も心に残ったのは、角野さんがデビュー作の『ルイジンニョ少年ブラジルをたずねて』のモデルとなったブラジル人のルイジンニョさんとオープン間もない「魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)」で、62年ぶりの再会を果たされた時のシーンでした。ご自身より年下のルイジンニョさんが衰弱されているのを感じた角野さんが、そっとやさしく抱擁する姿にじーんときちゃったんです。ルイジンニョさんは「必ずまた会いに来るよ」とくりかえしますが、その言葉は恐らく叶えられないように思えます。このシーンで私は「人生の残り時間」というものを想いました。時間が進むことを誰も止めることはできませんし、それにつれて自身が老いていくことも避けることはできません。そんな中で、やってみたいことや叶えたい夢があるということの意味を想ったのです。残された時間の中で、どれだけのことが許されるのか・・・。考えると切なさがこみあげてくるのですが、だからといって諦めて動きを止めてしまうのももったいないですよね。

作品の中で角野さんは「思い出っていうのは過去のことですよね。でも、それが未来で待っている。」と、ルイジンニョさんとの再会についてお話されるシーンがありました。もちろんこれは年齢を重ねることへの肯定とも言えますが、今を精一杯生きることの大切さや奥深さを言っているようにも感じます。私たちの人生という時間は、過去・現在・未来が時に驚くようなタイミングや方法で交差し、幸せな循環を生み出してくれる・・・そんなことが伝わってくるように思いました。エンドロールを眺めながら『くううう、私も角野さんみたいにカラフルに生きたいものだわっ』などと、小さく握りこぶしをつくっている私でした。なぜ握りこぶしなのか、それはちょっと自分でも意味不明ですけどね(笑)。


カラフルな魔女https://movies.kadokawa.co.jp/majo_kadono/
*愛知県では2024年2月12日現在、伏見ミリオン座(https://eiga.starcat.co.jp/)とミッドランドシネマ名古屋空港(http://www.midland-cinema.jp/movie/show)で上映中ですね。

■魔法の文学館https://kikismuseum.jp/
nice!(0)  コメント(0) 

ノクターン 夜想曲 [ダンス/レビュー]

先月になりますが(2024年1月)co山田うんの『ノクターン 夜想曲』を鑑賞しました。山田うんさんの作品はこれまでに何度か拝見してきましたが(2019年の神奈川芸術劇場での公演では出張先の北京からスーツケースを引きずって馳せ参じました:笑)、ゆるやかに手掛ける作品は変容していると感じます。クラシック音楽に振り付けることの多い時期から、土着的なテーマで作品創作を手がけた作品が多い時期を経て、今回は、山田さんご自身の言葉を借りるなら「どのシーンも言葉のない曖昧な形をしていて、意味がわからないと思いますが(当日パンフレットより引用)」という抽象度の高い作品に仕上がっていると感じました。

“夜想曲”という、前時代の「交響曲やソナタといった強い骨格の音楽」とは異なる、甘く夢見るような音楽ジャンルをテーマにしたこの作品は、舞台美術、衣装、照明、音楽も、まるで月明りの下でくり広げられる幻想のような美しさに包まれていました。

作品冒頭、舞台全体は薄暗く10名のダンサーがいる“気配”はあるものの、姿は判然としません。目を凝らしていると、うっすらとダンサーたちの上半身が見え始めます。彼らは全員で“コ”の字を立体的にねじったような線形のオブジェを掲げ持っていますが、ゆっくりゆっくり、オブジェを下ろしていきます。この不思議さとスローな雰囲気は作品全体に共通していると感じましたが、ダンサーたちのキレのある動き・・・全身使ってない筋肉なんてないよね、というくらいに研ぎ澄まされた動きが組み合わさることで、とても心地よいバランスを生み出していたと思います。波、ゆらぎ、スロー、月明り、リリース、コントラクション、目で追えないくらいのスピード・・・もう、みているだけでα波とイマジネーションがあふれ出しちゃいました(笑)。

私たちはコロナ禍によって個人の暮らしや働き方が思いがけない方向へ変化したり、戦争や自然災害で多くの人々が突然日常を奪われる時代を生きることになり、アーティストの手がけるクリエイションによってもたらされる安堵感が大きな力になっていくのかも知れません。

私は『ノクターン 夜想曲』で、日常で崩しちゃったバランスを心地よく整えてもらったなぁ、って感じました。山田うんさんのイマジネーション、これからも注目していきたいと思います。

■上演日:2024年1月19日
■上演会場:まつもと市民芸術館
*世田谷パブリックシアター世界初演、北九州芸術劇場でも上演。
■web: https://www.mpac.jp/event/39713/

nice!(0)  コメント(0) 

佐藤小夜子DANCE LABORATORY 『Introduction』 [しごと]

佐藤小夜子DANCE LABORATORYに、作品レビューをご提供しました。
とっても大人のセンスが効いた小作品で、一気にレビューを書き上げてしまいました(笑)。

ご提供する形になると、ちょっと固い感じの文章になってしまいますが
ぜひ、ダンス批評というものにもふれてみて下さいねーー。


日時:2024年2月4日(日) 15:00~
■会場:岐阜市民文化会館 大ホール
■第28回 岐阜県民文化祭 バレエとモダンダンスに親しむ文化の集い                              
     第2部 2作品目 『Introduction』

*↓下記をクリックしてご覧下さいませ↓*

『序章(=introduction)』という名の意欲作‐佐藤小夜子DANCE LABORATORY-


nice!(0)  コメント(0) 

JCDN MEMBERS ページに追加して頂きました [information]

JCDNは「ダンスと社会を結ぶ、ネットワーク型NPO」(JCDNのHPより)。私自身、これまでにレビューを提出させて頂いたり、節目のアンケートにご協力させて頂いたり関りを持たせて頂いていたのですが、会員の更新をすっかり忘れておりました(苦笑)。昨年、松本市でダンスの企画があってチケットを購入したことを機縁に会員の更新をさせて頂きました。

プロフィールページも掲載して頂きましたので、これまでの関連リンクとあわせてご紹介させて頂きますね。JCDNの業績は、とても大きなものだと思います。

*今回のプロフィール写真は、あいちトリエンナーレ2019の時の写真を使いました。あいちトリエンナーレ2019では一部展示が一時的に中止になるなどいろいろ話題になりましたね。私自身も友人・知人でも価値観が分かれるなど悲しい想いをしました。自分に何ができるかを考え、名古屋市美術館会場の作品でVTS(対話型鑑賞)を実施させて頂き、純粋に作品と向き合うことの大切さを訴求しました。その会に参加して下さった方が撮って下さった貴重で大切な1枚です。


★★★JCDN MENBERSページ プロフィールhttps://jcdn-web.org/members/members-3034/

■JCDN 「踊りに行くぜ!!」これまでの成果と「サード」に向けたアンケート②批評家
https://jcdn-web.org/news/news-382/

■JCDN 公演レビュー
『ASYL』 DANCE×MUSIC×MOVIE!:https://danceplusmag.com/?p=9162
2008年4月号「踊りに行くぜvol.8 SPECIAL IN OSAKA」:https://log-osaka.jp/article/index.html?aid=313

nice!(0)  コメント(0) 

Monochrome Circus 33周年記念公演 クロニクル  [ダンスプレビュー]

京都を拠点に活動するMonochrome Circusが2023年、結成から33年を迎えた。コロナ禍の影響を避けるため本公演は2024年の上演としたが、開催にあたっては“これまで”と“これから”を“観客と歩んでいきたい”との願いを込め、クラウドファンディングにも挑戦した(成果は目標金額の2倍以上というもの)。

私自身も彼らのワークショップに参加することでダンスを自分の身体で感じ、言葉にすることを学び続けてきた(ありがたし)。そして、私のように彼らのワークショップや作品を通じて多くの人がダンスに親しみ、時にはダンスに関わる職業を選ぶ人が登場するまでになっている。彼らの歩みは影響力が非常に大きいといえるだろうと思う。

彼らの影響力の大きさは、今回上演される『クロニクル』の出演者の顔ぶれをみても確かだ。33年という年月の間にはカンパニーに参加し、離れた者も(メンバー同士で結婚した者も)いる。子供の頃にワークショップに参加し、大人になった今も時々踊る者、世界を舞台に多彩なアーティストと共演をしている者、ダンス界の第一線で活躍する者、森裕子の教えるバレエ教室の若者たちまでいる。多くの出演者がそれぞれの人生において影響を受け、今を生きているのだ。

また、33年を記念する公演の楽しみはメンバーの顔触れだけにとどまらない。過去に上演された作品をみたことのない観客にとってはまたとない出会いの場であり、再演として出会い直す観客にとっては懐かしさに加え、新たな発見や気づきをもたらすだろう。

Monochrome Circus がどんな作品たちと共に進化・成長をしてきたか、その歩みを確かめることのできる貴重な公演だ。ラインナップも出演者も多彩で豪華。ぜひ見逃さず、会場に足を運んで頂きたい。超、おすすめ(笑)!


■日時:2024年 2月3日(土)17:00開演/2月4日(日)14:00開演
会場:京都府立文化芸術会館
■詳細https://monochromecircus.com/lp/chronicle/
nice!(0)  コメント(0) 

ポスト舞踏派『魔笛』 [ダンス/レビュー]

Sold outになってしまって諦めていたこの公演。追加チケットを手に入れて、なんとかみることができました。敬愛する笠井叡さん、今をときめくキレッキレのダンサー5名が参加するというだけでもどうやって書こうか迷うところなのに、そこにフリーメイソンなど私の知らない世界のことが絡んでいる・・・うわーん、そんなの掘り下げないと書けないじゃーん、と絶句していましたが、このままでは膨大な学習時間を擁してこれっぽっちも進まないので(苦笑)、不完全な理解のままでも、感じたことを書いておくことにしました。


冒頭、カツンコツンと下駄履きの森山、辻本、菅原、島地、大植らが赤い番傘をさしながら客席後方ドアから(3階席からはスタート地点は見えなかったのですが)登場し、舞台へあがってきます。ワイワイガヤガヤと何やら会話しながらはじまるその立ち上がりは、西洋歌劇『魔笛』という雰囲気とは異なり、カジュアルな印象でした。この時の4人の衣装はシンプルに黒いパンツに白シャツだったように思いますが、この不思議な「和テイスト」はラストシーンでも採用されています。その際には歌舞伎役者をイメージさせるようなカラフルな衣装で、しゃべりも七五調でそれぞれ自己紹介をするというものでした。作品全体を通して、5人のダンサーがちょこちょこ笠井さんをユーモアを添えて茶化しているようなシーンが盛り込まれていて、笠井さんと年の離れたダンサーたちがわいわいやっている感があって、楽しい作品だと感じました。

キャッチコピーには「その時、秘密結社は消滅し、すべての人間がフリーメイソンとなる」とあるので、私などはちょっとオカルト的な緊張感を感じていたのですが、フリーメイソンは「会員相互の特性と人格の向上をはかり、よき人々をさらに良くする」ことを目的とした友愛結社(親睦団体)ということらしく、決して怖い組織ではないようです。

笠井さんのオイリュトミーのワークショップや講義などに参加したことのある私には、この作品は笠井さんの人類に対する愛なんだと思いました。当時、モーツァルトがオペラを通じて行ったこと(フリーメイソン内で秘密として共有されてきた人類がより善く生きていくための知見のようなものの公開)を笠井さんはさらに、組織や権威、言語から解放し、ダンスとして体現することで誰にでも享受できるように再編したのだと思います。作品中で笠井さんはちょいちょい、宇宙的な身体論を盛り込んでいたように思います(例えば「逆さ人間」の話。人間を頭から地面に挿すと、そこから人が殖えることが出来るようになるため、人類は男女が生殖行為をする必要がなくなる・・・といったような内容のこと)。黒いマントのような衣装にサングラスといった姿の笠井さんはザラストロという悪者の役割ですが、作品中で人類の救済の叡智を語っているのだとも思いました。ここは5人のダンサーたちが笠井さんを茶化すという演出と同じように、本来の魔笛の設定と逆のような立場をとることで、モーツァルトよりもさらに解放を推し進めるように意識しているのかな、とも思いました。
また、個人的に最も衝撃的だったのは挿入された映像。モノクロの映像で、身体の肘?のクローズアップから、ぼんやりと見えてきたのは上半身裸の老いた女性・・・これがなんと笠井さんの奥様・久子さん(!)と、寄り添うように踊る笠井さんのデュエットシーンでした。もう、この映像から人類が殖えちゃいそうな(表現おかしいかな;)美しく忘れがたい1シーンでしたが、タミーノとパミーナ、パパゲーノとパパゲーナ、どちらのカップルでもない第3のカップルの挿入によっても、笠井さんがこの作品でめざした新たな時代の友愛・解放が示唆されたように思います。


ラストシーン近く、笠井さんが宙づりになるシーンがありました。肩口あたり?にセットされた装具からワイヤーで舞台床と天井の中間あたりにブラーンと吊られていましたが、みている方としては心配で心配で(笑)。うっかり落ちやしないか、ちゃんと息をしているか、誤って変なところで過度な締め付けになっていないかなど、ハラハラです。笠井さんも吊られている間、死んだように動かないので、余計に心配でした(苦笑)。ただ、このシーンはザラストロという古い観念の死だったりするのだろうかとも思いました。確か笠井さんは作品中で「私はもう、ここを離れます!」みたいなことを言っていたので、本気で地球からいなくなるつもりなのかも知れません。え?私、変なこと言い出してますか?!


ロビーで笠井さんの著書『檄文』が限定300部(しかもサイン入り)で、お弟子さんが「笠井さんはもう、ここにすべてを書いたので、今後は書かないと言ってました!一般書店では買えません!」と販売されていたので、脊髄反射的に購入してしまいました(笑)。この本を読みこんで、この記事も書こうと思っていたのですが、まだ時間がかかりそうなので、先に感想的な文章をしたためることにしました。著書にはご両親のことや今回の『魔笛』のことや、日本語についてなど、本作品を深く掘り下げることのできそうな文書の数々が並んでいて、読み進めるのがとても楽しみな内容です。確かに、この著書には笠井叡がぎっしり詰まっているように思います。読破して、また追記・編集するかも知れませんので、その際にはまたお知らせしますね。

作品と著書のダブルワクワク。やっぱり笠井さんは、私の永遠のアイドルですね~。ひゃぁ、たまんないっす。


*文章がとっ散らかってしまい、恐縮です。。



■日時:2024年1月8日(月) 
■会場:神奈川芸術劇場 大ホール
■振付・演出・構成​:笠井叡
https://www.post-butoh-ha.com/
nice!(0)  コメント(0) 

PERFECT DAY [映画]

*本題までの前書きが長いです。前半は『PERFECT DAY』のレビューというより、前段。不要な方は読み飛ばして下さいね。


<あなたが映画を選ぶ理由はなんでしょう?>

映画をみようと思うきっかけは人それぞれ。では、ご自身がどんな映画を選んでみているかは意識されているでしょうか?

先日、ある方から1つの映画作品を薦めて頂きました。出演者によく名前の知られたダンサーがいたこともあり、その方は私にその作品を薦めて下さったのかも知れません。私自身も、先ず出演者の情報を伺い「わーい、それみたーーい!」とはしゃいでしまった(笑)のですが、作品についての詳細情報のリンクを頂いて愕然とします。戦後の混乱の中で身を売りながら日々を生きる女性と、戦争孤児となった少年とのふれあいや、戦争で傷を負った男との関わりなどを通して人間というものが描かれている内容だったのです。私は、なぜか女性が身を売ることなど女性特有の性にまつわるエピソードが苦手で、受け入れられないことがほとんどです。とても辛く苦しい気持ちになり、身体的にも影響が出てしまうほど。出産といったおめでたいことですら、少ししんどい気持ちになってしまうので、かなりの重症だと自覚しています(苦笑)。

友人にその話をしたところ「心揺さぶられる問題作とかよくあるけど、別に揺さぶられなくていいから。無理してみなくていいよ。」とバッサリ(笑)。では、私自身はどんな映画がみたいのだろうと考えてみました。

実は先日、沢田研二さんが出演されるのが気になり録画していた、山田洋二監督の『キネマの神様』を見始めたのですが、沢田さん演じる主人公はギャンブルで借金を重ねるどうしようもない人物。私は悲惨な物語の展開を想像して辛くなりかけたのですが(苦笑)、主人公はどこかほのぼのとしている。娘や妻から借金をしないよう厳しく責められるのですが、子どものようにダダをこねている。娘はこれまでに父親である主人公の借金を肩代わりしてきていますが、今は自身の仕事もまもなく先がなくなるような辛い立場。それなのに男に映画の会員権の会費は面倒をみてやるといっているのです。・・・そう、山田洋二監督は人をこのように描くんですよね。子供のころ、私は両親に正月になると必ず『男はつらいよ』の映画をみに連れていかれた時の感覚を思い出しました。両親たちは寅さんのどうしようもなさを軸に描かれる人情のぬくもりに暖をとるように毎年、山田洋二監督の『男はつらいよ』をみていたのだと思います。両親ともに仕事には苦労をしていましたし、暮らしもさほど余裕はなく、きっと日常は辛い思いをしていたと思います。見はじめた『キネマの神様』から、私は自分が選びたい映画は自分がほっと息をついたり、そっと温まるようなものを求めるのではないかと直感しました。


<ようやく『PERFECT DAY』についての感想を>

日常にささやかな幸せをみつける、という印象を持っていた『PERFECT DAY』を選んでみることにしました。監督はドイツ人のWIM WENDERS。『ベルリン・天使の詩』('87)や『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』といった作品を手がけている方でした。ピナ・バウシュのドキュメンタリーはピナの死後、私もみていて、彼女の人生や魅力を伝える優れた作品だと感じていましたが『PERFECT DAY』は、主人公・平山の日々を追った詩的なドキュメンタリーのようでもあり、音楽が美しく織り込まれたロードムービーのようでもあると感じました。上演時間は2時間20分ですが、時間を忘れてひきこまれました。

日常にささやかな幸せをみつける・・・私の最初の印象は言葉としては同じかも知れませんが、そこには平山という人物の描かれ方・・・描かれていない余白の奥深さが加わることでニュアンスが変わったと思います。日々を慎ましく、無口であまり人と関わらず、ほぼ同じ日常動作のルーティーンに生きていると書くと、無味乾燥な人物とも思われそうですが、彼にとっての日常は、木漏れ日のように二度と同じもののない輝きと美しさに満ちている。朝、仕事場に向かうたびに見上げる空をみて、ふっとみせる微笑みや昼食をとるために立ち寄る神社の境内には“友だちの木”がいたりする。慎ましい暮らしといえど、職場には高速道路を使って移動していますし、毎週末ごとに撮りためた木の写真を現像して満足しない写真は破り捨てるなどこだわりもあり、文学作品を読みふけるなど知性もある。ちょっと気になる美人ママのいる居酒屋の常連客でもあります。また、作品の中で平山の生い立ちが垣間見られる設定があるのですが、そこにはどうしようもない理由から断ち切られたであろう家族への想いがあふれるシーンがあります。封じ込めた想いや、止まってしまった時間がどうしようもなくそこには根雪のように溶けることが出来ずにあるのでしょう。劇場では涙する観客もチラホラ。私もグッときてしまいました(笑)。

ラストシーン、車を運転する平山の顔をアップにしたシーンでは、役所広司さんの深い演技が圧巻です。微笑みとこみ上げる悲しみや淋しさが往来し、その表情は木漏れ日のようでもありました。美しく、人生の深さを感じる素晴らしいシーンでした。

監督がドイツの方ということもあるのでしょうか。日本を描く切り口も新鮮でした。平山の暮らす場所は東京スカイツリーの近くで、都会と人情的な下町とが同居するような場所です。平山の住むアパートの裏にはお寺があるようで、毎朝その場所を箒で掃き清める音で平山は目覚めています。作品の中に登場する魅力的なデザインの公共トイレは『THE TOKYO TOILET』というプロジェクトでつくられたもので、世界的な建築家やデザイナーが手がけているそうです。どのトイレも平山がピカピカに磨き上げていましたが、監督はこのプロジェクトに深く感銘を受けたとあるTV番組では紹介されていました。訪れてみたいトイレです。

あと、なんと作品中には田中泯が登場しています!知らなかったので、超ビックリです(笑)。平山にしかみえないホームレスという設定なのですが、踊ってるんですよー、舞踏。もう、嬉しすぎて声をあげそうになっちゃいました。思わぬところで踊る人が登場してくれて、テンション爆上がりでしたね。


<長文になって、すみません>

映画のレビュー、書き慣れないこともあって、長文になりました。ん?レビューといえるのかしら(笑)。すっかり魅了されて映画館を出た私。この作品を選んで良かったなと、とても幸せな気持ちで満たされました。いい映画です。


■PERFECT DAY: https://www.perfectdays-movie.jp/




nice!(0)  コメント(0) 

このブログへのアクセス数が60,000を越えました。  [Thanks!]

こちらのブログ、2023年は何と年間を通して4件という投稿数で、自分でも『・・・こんなに書けていなかったのか;』と愕然しましたが(苦笑)、2024年に入り、書く元気が戻ったようでコツコツ投稿することが出来ております。ようやく?心の中にあったブロックみたいなものから抜け出せたようです。書き出してみると、どうしてあんなに書かなかったんだろうと思うほど。しかも楽しみながら取り組めているから不思議です。諦めず続けてきて良かったなーって思います。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!


     2024年1月17日 Arts&Theatre→Literacy 亀田恵子 
nice!(1)  コメント(0) 

神田伯山 新春連続読み『畔倉重四郎』2024 [古典]

クルマを運転していて、偶然聞いたラジオ番組は。講談師の神田伯山さんが30分間ブラックユーモア満載で話し続ける番組でした。なんだかおもしろいなぁと思って、長時間運転するときによく聞いている音楽のサブスクサービスで過去番組を聞くようになり、youtubeで講談動画をみて、いよいよライブで聞きたい願望が膨らみました。そこで、公演情報を探したところ、新年早々名古屋で“連続読み”というスタイルでの公演が開催されることを知りました。

神田伯山さんは“日本一チケットのとれない講談師”と呼ばれているほどの実力者で、連続ものといわれる長大な作品を連続して聞かせる連続読みというスタイルに取り組むなど、講談世界の革命児としても注目されている方です。何より、日常のエピソードを絶妙に織り込み、圧倒的な迫力・繊細な演技力で物語の世界へ観客を引き込んでいく話芸は見事のひと言。張り扇と呼ばれる扇のようなもので釈台(講談師の前にある文机みたいなもの)をバシバシ叩いてテンポアップしていくと、観客のテンションあがる、あがる(笑)。語られる世界が目の前に拡がっていくようで、ワクワクしちゃいます!

今回の『畔倉重四郎』は“本能のまま欲望のままに殺しを繰り返す”というサイコパスみたいな人物が主人公の物語のようですが、なんて恐ろしい(苦笑)。この物語を5日間にわたって毎日語るそうなのです。ただし、前夜祭というプレ講談のような1日が設定されていて、本編以外の講談が語られます。ちょっとしたウォーミングアップ・初心者向けのきっかけづくりのようなものでしょうか。私はまずは、この前夜祭に出かけてみることにしましたが、物語の登場人物の語り分けや畳みかけるような熱い語りで神田伯山の魅力・実力にすっかり魅了されてしまいました。・・・勢い、もう1日分チケットを手配してました(笑)。

まだチケットが残っている日もあるようなので、興味がわいた方はぜひ。
日本の話芸の魅力、新たな講談の歴史を切り拓く若き巨人の奇跡を目撃して下さいね。

■神田伯山 新春連続読み『畔倉重四郎』2024 詳細:
https://www.kandahakuzan.jp/news/2023/-2024.html

【名古屋】2024年1月16日(火)〜21(日)18:30開演/18:00開場 中電ホール

nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。